カンボジアにおける外資投資規制について

令和2年9月更新

 カンボジアにおける投資を規律する投資法(1994年8月5日、法第03/NS/94 号。投資法改正法(2003年3月24日、法第NS/RKM/0303/009 号)による改正を含み、以下「改正投資法」といいます。)においては、土地の所有権に関する場合を除き、投資家が外国人投資家であることを理由として差別的な取扱いを受けない旨が規定されており、カンボジアにおいては、外資規制は、建前上は存在していないということがいえます。これは、ポル・ポト政権時代に、農業以外の産業がほぼ壊滅状態となったことで、カンボジア国内には保護すべき地場産業がほとんど存在しなかったことが理由の1つと考えられます。

 ただし、カンボジアは、法整備が現在進行しつつある段階にあるため、法律相互の記載に不一致があったり、監督官庁によって解釈・運用が異なったりする場合が少なくなく、また、個別の業法において、上記の建前とは異なって、外国資本の出資比率の割合の制限が定められていたり、特別な許認可の取得が求められていたりする場合があるため、注意が必要です。

 本稿では、カンボジアにおいて投資が禁止されている事業分野及び個別法において外資規制が定められている可能性の高い分野を検討すると共に、カンボジアにおける主要な外資規制の1つである不動産所有に対する外資規制を紹介します。なお、カンボジアにおいては、本稿で検討する規制に加えて、外国人の就労等に関して制限が存在しているため留意が必要です。

1. 投資禁止事業

 改正投資法の下位規範(改正投資法に関する法の施行に関する2005 年9 月27 日付政令第 111 ANK/BK 号の付属文書1-6.1条関連)において、企業の国籍を問わず投資が禁止されている投資事業として定められている4つの事業の概要は以下のとおりです。

  • (1) 向精神薬・麻薬物質の製造・加工
  • (2) 国際的な規則又はWHOにより禁止され、公衆衛生及び環境に影響を及ぼす、有毒化学物質・農薬・及び化学物質を用いたその他の商品の製造
  • (3) 外国から輸入した廃棄物を用いた発電等
  • (4) 森林法が禁止する森林開発事業

 なお、従前は、(5)として、法令により禁止された投資活動との記載がありましたが、2007年に削除されました。

2. 例外的に外資規制が存在する事業分野

 上記のとおり、改正投資法上は、土地に関する制限を除き、外国人投資家は、外国人投資家であるという理由により差別的な取扱いを受けないことが保障されています。しかし、実際には、タバコ・アルコール飲料の製造、映画の製作、出版・印刷、ラジオ・テレビ放送、医薬品の輸出入等の一定の事業分野については、主に監督官庁が定める個別の業法において、外国資本の出資比率の割合の制限が定められていたり、特別な許認可の取得が求められていたりする場合があります。したがって、実際にカンボジアへの進出を検討する場合や、カンボジアの会社を対象としてM&Aを行うにあたっては、最新の法改正や運用状況に注意を払うと共に、予定している業務を所轄する監督官庁の法令において個別の規制が定められていないかを確認し、必要に応じて当該規制当局と事前の折衝を行い、必要な許認可・ライセンスの種類・取得手続・必要書類を事前に把握しておくことが重要であると思われます。

3.  外国人・外国企業による不動産取得に関する外資規制

⑴ カンボジアの不動産法制

 カンボジア法では、土地定着物又は土地と一体となったもの(土地上に建築された建物、工作物等を含む)は、原則として、1つの不動産として取り扱われます(民法(2007年12月8日、法第NS/RKM/1207/030))。かかるカンボジアの不動産法制は、日本法下の不動産法制と比較しても特徴的です。

 また、カンボジアでは、カンボジア内戦に伴う権利証や登記簿の喪失等に伴い、土地の所有関係を確認することが困難な状況にあるため、土地所有権の帰属を巡って法的紛争が生じることも珍しくありません。そのため、カンボジア国内で不動産を所有しようとする外国人・外国企業は、不動産投資に先立って、その権利関係について慎重な調査を行うことが望ましいです。

⑵ 不動産取得に係る外資規制

 カンボジアでは、外国人・外国企業による単独での不動産所有は認められていない(カンボジア王国憲法、土地法(2001年8月13日、法第NS/RKM/0801/14))。カンボジア国内で不動産を所有することを目的とする外国人が、カンボジア国籍を有すると偽った場合は、処罰の対象にもなるため、留意が必要です。他方で、カンボジア国籍を有する自然人又はカンボジア法に基づき設立された法人が、その株式の51%以上を保有する法人は、カンボジア国内での土地所有が認められています。

⑶ 外国人・外国企業による主な不動産利用形態

ア 合弁企業を利用した不動産所有

 前述のとおり、カンボジアでは、外国人・外国企業による単独での不動産所有は認められていません。そのため、カンボジア国内で不動産を所有しようとする外国人・外国企業は、カンボジア国籍を有する自然人又はカンボジア法に基づき設立された法人と共に、51%以上の株式をカンボジアの自然人・法人が保有する形態で合弁企業を設立し、この合弁企業に不動産を所有させるのが一般的です。

イ 不動産永貸借 

 カンボジア法では、「永借権」と呼ばれる15年以上の賃借期間を定めた長期賃貸借制度が設けられています。もっとも、永借権契約の締結は書面でなされなければならないこと、第三者対抗要件として登記を具備する必要があること、その期間は50年を超えることができないこと、永貸人は永借人に対し、永貸借契約の終了にあたって、原則として原状回復請求ができないこと、永貸人は永貸借契約の終了にあたって土地上の工作物等の所有権を取得することなど、日本法下の不動産法制とは異なる側面も有しているため、留意が必要です。

ウ 土地コンセッション(Land concessions)

 土地コンセッションとは、カンボジア政府とのコンセッション契約に基づき付与される、特定の土地を占有し、土地法に規定された権利を行使することができる法的権利をいいます。土地コンセッションが付与されうる面積は、最大1万ヘクタールで、期間の上限は99年です。土地コンセッションを受けた者は、コンセッション契約に定められた期間内に限り、当該土地を使用することができます。コンセッション契約により排他的な使用権が定められた場合、当該土地を独占的に使用することができますが、当該土地に係る完全な所有権を取得するものではありません。

 土地コンセッションには「社会的コンセッション」「経済的コンセッション」「使用・開発・探査コンセッション」の3種類があり、このうち特に「経済的コンセッション」が企業による経済活動促進のために利用されています。実際、カンボジアでは、大規模なプランテーション、家畜の飼育、農産物加工工場の建設、鉱業、観光業等の多種多様な目的のもとで「経済的コンセッション」が活用されてきています。

 しかし、他方で、かかる「経済的コンセッション」は森林資源や土地資源に生活基盤を置く現地コミュニティに対する脅威となる等の問題点も指摘されており、実際に2012年5月には新たな「経済的コンセッション」の付与が一時的に停止されたこともあるため、留意が必要です。

以上