カンボジアにおける知的財産権

2016年12月5日更新

 カンボジアは、1995年にWIPO(世界知的所有権機関)に加盟し、1998年に工業所有権の保護に関するパリ条約に加盟している。近時では、2015年6月5日に標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書、2016年9月15日には特許協力条約の加盟国となり、同条約は2016年12月8日に発効することになっている。ただし、2016年現在、ベルヌ条約には加盟していない(万国著作権条約には加盟)。

 また、知的財産権に関する国内法整備については、2002年に「商標、商号及び不正競争に関する法律(Law on Marks, Trade Names and Acts of Unfair Competition、以下「商標法」という。)」、 2003年に「著作権及び関連する権利に関する法律(Law on the Copyright and Related Rights、以下「著作権法」という。)」及び「特許、実用新案及び意匠に関する法律(Law on the Patents,Utility Model Certificates and Industrial Design)」が制定されており、これらの法律が、現在のカンボジアにおける知的財産権を規定する基本的な法律となっている。

 これら知的財産権の実際の利用に関しては、商標権については、登録件数が2009年に3,000件を超え、2013年には5,851件の商標登録がなされており(出所:WIPO「Statistical Country Profiles」 http://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/country_profile/profile.jsp?code=KH 相当の利用が進んでいる。他方で、特許権・実用新案権・意匠権についてはこれまでのところ登録件数は限定的である。

 本稿では、カンボジアに進出する日系企業が利用することが多いと思われる商標権及び著作権について、商標法及び著作権法に基づいて概説する。

  1. 1. 商標権
  2.  商標権の基礎となる標章とは、可視的な標識で、ある事業の商品又はサービスを識別することができるものをいう。カンボジアにおいて標章についての権利を取得するためには、原則として、商標法に従って商標登録をする必要がある。ただし、カンボジア王国において周知の標章については、未登録であっても、かかる周知標章の所有者の同意なく同一又は類似の標章が使用された場合には、商標法に基づく一定の保護を受けることができる。

     商標出願は、カンボジア商業省に対して行う。カンボジア国外に住所地等を有する出願者は、カンボジア国内に住所を有し業務を行う代理人を指名選任してこの者を通じて出願する必要がある。出願は、クメール語又は英語で行う必要があり、その他の言語を用いた出願には、クメール語又は英語の翻訳を添付する必要がある。

     商標出願については、①出願書類・添付書類が揃っているかどうか、出願手数料が納付されたかどうかといった方式審査、及び、②出願標章が標章の定義を満たしているかどうか、有効に登録することができない標章に該当しないかどうかといった実体審査が行われる。有効に登録することが出来ない標章には、以下が含まれる。

     (i) ある企業の商品・サービスを他の企業の商品・サービスと区別することができない標章

     (ii) 公衆の秩序・道徳・慣習に反する標章

     (iii) 当該商品・サービスの原産地・性質・特徴に関し、公衆又は取引社会に誤解を招く可能性がある標章

     (iv) 国家・政府機関・国際機関の紋章・旗・名称・略称等と同一又はこれらを含む標章

     (v) 他の企業の商品・サービスについてカンボジア王国において周知である標章と、同一の標章又は混同を生じる程度に類似の標章

     審査の結果、要件を満たさないと判断された場合、出願人は、その旨の通知書を受領してから45日以内に、自身の出願を補正することができる。かかる期間内に、出願人から補正に関する応答がなされない場合、当該出願は拒絶される。審査の結果、要件を満たしていると判断された場合、①出願人に対して登録証が交付され、②商業省の公報において公告される。かかる公報の発行後90日間、当該標章に係る利害関係人は、上記の要件を満たしていないことを理由として、当該標章の登録に対して異議を申し立てることができる。

     登録された商標の保護期間は、出願日から10年間である。注意すべきは、登録後 5 年間連続して当該商標を使用していない場合に、商標登録の削除請求を認める制度が存在している点である。また、商標登録は、10年毎に更新手数料を納付して、登録を更新することができ、更新の回数に制限は定められていない。また、更新の遅滞には、6ヶ月の猶予期間が認められる。

     登録された商標は、商標権者の同意なく、当該登録に係る商品又はサービスにつき使用することはできない。商標権者は、登録された標章又はこれに類似する標章を自身の同意なく使用する者に対して、商標権の侵害等を防止するための差止命令及び損害賠償を求めて、裁判所に訴訟を提起することができる。また、商標権者は、税関又は裁判所に対して、偽造された疑いのある標章が付された商品の通関の差し止めを求めることができる。加えて、罰則として、登録商標の侵害又は偽造された標章が付された商品の故意の輸入・販売・販売申出・販売目的所持に対しては、最大で懲役5年及び罰金2,000万リエル(約570,000円)が科され、追加的に、これらの商品は、裁判所の判決に従って没収・廃棄されうる。

  3. 2. 著作権
  4.  著作権法の保護の対象である著作物とは、思想又は感情が創作的な形で表現された、文芸・科学・美術・音楽の領域に属する製品と定義される。かかる著作物を創作した者が著作者であり、当該著作物についての著作者人格権及び財産的権利は創作時点で著作者に帰属する。以下に列挙した著作物は、著作権法上の保護を受けることができる。

     (i) カンボジア国民、又は、カンボジアに常居所を有する著作者の著作物(カンボジアの法令に基づいて設立され、カンボジア王国の領域内に本社を有する法人を含む。)

     (ii) カンボジアにおいて最初に発行された著作物

     (iii) 本社又は常居所をカンボジアに有する製作者の視聴覚の著作物

     (iv) カンボジアで建設された建築の著作物及びカンボジアに所在する建築物に組み込まれたその他の美術の著作物

     (v) カンボジア王国が国際条約に基づき保護を与える義務を負う著作物

     著作物は、登録等の手続なくして当然に著作権法に基づく保護を享受することができるが、著作者等は、その著作物を、文化芸術省に登録することができる。著作物の登録に必要とされるのは、以下の各項目である。

     (i) 著作者の名称

     (ii) 著作物の最初の公表日

     (iii) 著作物の創作日

     (iv) 著作者の権利の記録

     著作物が登録された場合、文化芸術省は、著作物の登録証明書を発行する。

     著作物が、複数の自然人の共同の努力の結果として創作された場合、当該著作物は共同著作物となる。共同著作者は、当該共同著作物についての権利を行使するためには、共同著作者全員の書面による同意が必要であり、意見が一致しない場合、裁判所に申し立てをしなければならない。

     雇用契約・著作物利用契約等に基づき雇用者のために創作された著作物については、これらの契約に反対の定めがない限り、当該著作物の財産的権利は雇用者に移転されたものとみなされる。ただし、権利関係の明確化のためには、従業員との間で著作権の帰属について契約上明記しておくことが望ましい。

     著作者は、著作物について、あらゆる者に対して行使可能な排他的権利(著作者人格権及び財産的権利)を有する。著作者人格権は、永続的で、時効にかからず、譲渡・差押の対象とはならないが、死亡により著作者の相続人に移転し又は遺言により第三者に移転する。著作者人格権には、以下の権利が含まれる。

     (i) 著作物の公表の方法・時期及び公表の原則を決定する権利

     (ii) 公衆との関係における著作者の名前・肩書及び著作物についての権利

     (iii) 著作者の名誉及び評価を害する著作物の内容の歪曲・切除・改変に反対する権利

     著作者の財産的権利とは、著作物の複製、公衆への伝達及び二次的著作物の創作に対する許諾を通じて当該著作物を利用するための排他的権利であり、著作者は、以下の行為を自ら実施し又は第三者による実施を許諾する排他的権利を有する。

     (i) 著作物の外国語への翻訳

     (ii) 著作物の翻案・単純化・改変

     (iii) 視聴覚の著作物、レコード・コンピュータプログラム・データベースとして収められた著作物又は楽譜の形での音楽の著作物のオリジナル又はその複製物の貸与又は公衆に対する貸出

     (iv) これまで著作権者によって許諾された販売又は所有権の移転の対象となっていない著作物のオリジナル又はその複製物の販売又は貸与による公衆に対する流通

     (v) 著作物の複製物の輸入

     (vi) 著作物の複製

     (vii) 著作物の公衆に対する実演

     (viii) 著作物の公衆に対する展示

     (ix) 著作物の放送

     (x) 上記以外の方法による著作物の公衆に対する伝達

     著作者の財産的権利の保護は、著作物の創作の日から開始し、著作者の死亡後50年が経過するまで存続する。

     著作者の財産的権利の有効期間は、原則として、著作物が創作された日を始期とし、著作者の生存期間内及びその死亡の日から50年間である。共同著作物の場合は、最後に死亡した共同著作者の生存期間内及びその死亡の日から50年間である。

     著作権又は関連する権利の侵害を受け又は受けるおそれがある者は、その損害の賠償、精神的損害の救済、係争物の返還、違法行為に由来する利益の返還、権利侵害行為の差止を請求するために、裁判所に訴訟を提起することができる。加えて、刑事罰として、著作者の権利を侵害する者に対しては、最大で懲役1年及び罰金2,500万リエル(約711,000円)が科され、追加的に侵害行為により得られた収益の全部又は一部の押収、押収物の著作者等への返還又は破壊という措置がなされうる。

以上